濱口達史

先日、青色発光ダイオードの発明を讃え、赤崎、天野、中村の三博士にノーベル物理学賞が贈られました。本当に祝福すべきであると思います。一方で、今回の裏の側面としてマスコミに再びとりあげられているのが中村さんと日亜化学工業株式会社の訴訟問題です。 中村さんは徳島県に拠点を置く日亜化学の研究員として今回の受賞につながる成果を挙げました。その結果、中村さんは学会のスターダムを駆け上った一方で、日亜化学はたちまち世界有数の企業へと成長しました。しかしその後、中村さんと日亜の関係は悪化。氏は日亜を退職し、「怒りを感じる」という言葉とともに、発明の対価として600億円を求めた裁判を起こしました。結局、数年の法廷闘争の後に約6億円の賠償金を日亜が中村さんに支払うことで決着します。 中村さんは、青色LEDの発明はすべて私がやった、発明の対価として2万円しかもらっていない、日本の研究者は奴隷のようなもの、という趣旨の主張をしています。その結果、中村さんは孤高の義士で、日亜化学は労働者から搾取するだけの悪の企業、というステレオタイプなイメージが流布しました。 はたしてそれは本当なのでしょうか? 中村さんの「すべて自分でやった」という趣旨の主張には多くの人が反論します。実際に青色LEDを実現するには無数の致命的な課題があったのですが、その解決策を提案し実現したのは中村さんの周りにいる若いエンジニア達でした。彼らが「こんなアイディアを試してみたい」というと、中村さんはきまって「そんなもん無理に決まっとる、アホか!」とケチョンケチョンに言い返したそうです。それでも実際にやってみると著しい効果があった。そういう結果を中村さんがデータだけ取って逐一論文にし、特許にし、すべて自分の成果にしてしまったんだ、と。これらの進歩はまだ青色LEDが実現する前の話で、プロジェクト自体がうまくいくかなんて全くわからないフェーズでの出来事です。そんな中、みんな必死になって策を練り、頭をフル回転させて一つ一つ突破口を開いていった。そういう状況があるのに、全て自分がやったという主張は受け入れられない、という気持ちの人が多いようです。